建設業界や製造業の現場で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が推進される中、既存の建物や設備を効率的にデジタル化する手法として「点群データのCAD化」は多くの方が関心を持つトピックです。「古い図面しかなく、現在の実態と乖離している」「手作業での計測に限界を感じている」——こうした課題を解決するのが、3Dスキャンによる点群活用です。
しかしながら、点群データからCAD化のプロセスはCAD単体の利用と比較して、公開されている情報が少なく、ブラックボックスに感じている方も多いのではないでしょうか。本記事では、点群データをCAD化する具体的な方法や、活用すべきソフト、実際の事例について詳しく解説します。
まず、「点群データとは何か」について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
点群データをCAD化するメリット
点群データとは、3Dレーザースキャナーなどで取得した「座標(X, Y, Z)と色情報を持った点の集合体」です。これをCADデータ(3Dモデルや2D図面)に変換(モデリング)することで、設計・施工のワークフローが大きく変わります。手作業で寸法を測り、ゼロから図面を起こしていた従来のプロセスと比較して、飛躍的な効率化と精度向上が期待できます。
点群データのメリット
- メリット1「高精度な現状把握」
数ミリ単位の精度で実態を反映した図面が作成可能です。竣工図面と現況の乖離を解消し、正確な設計基盤を構築できます。 - メリット2「作業時間の短縮」
手計測による現地調査の手間を大幅に削減できます。広大な施設でも短時間でデータ取得が完了します。 - メリット3「シミュレーションの容易化」
新設設備の干渉チェックや搬入経路の検討が可能になります。現場での手戻りリスクを事前に排除できます。
点群データをCAD化することは、単なるデジタル化の一手段ではなく、設計品質・工事精度・コミュニケーション効率のすべてを底上げする基盤技術といえます。特に改修工事においては、既存構造物の正確な把握が設計の出発点となるため、そのメリットは計り知れません。
点群データだけでは対応できない領域
一方で、点群データは「点の集合体」であるがゆえに、そのままでは対応が難しい作業領域も存在します。点群データの活用を検討される際には、以下の制約を理解しておくことが重要です。CAD化やメッシュ化といった後処理が必要となるケースを把握することで、プロジェクト全体のワークフロー設計がより正確になります。
点群データ単体では苦手なこと
- FEM解析
点群データは「柱」「配管」「壁」などの属性情報を持っていません。耐震解析などの構造計算を行うには、対象物をCAD化(ソリッド化)して、材料特性や断面情報を付与する必要があります。点群のままでは解析ソフトが認識できる形式になりません。 - 衝突判定(干渉チェック)
「搬入経路の検討」や「干渉チェック」を正確に行うには、対象物が閉じた面を持つ必要があります。点群データは離散的な点の集まりであるため、点と点の間をすり抜けてしまい、正確な衝突判定が行えません。CAD化またはメッシュ(ポリゴン)化して、閉じたサーフェスを生成する必要があります。 - 図面としての共有(点群は重い)
点群の上に寸法を表示する機能を持ったソフト(InfiPointsなど)を用いることは可能です。しかし、点群データは膨大な点の集合体であるためファイルサイズが非常に大きく、CAD図面のように複数の関係者と気軽に共有するのは現実的ではありません。設計・工事担当者にとって、2D/3DのCADへの変換は欠かせない作業です。
点群データCAD化の活用事例
点群データをCAD化した後の活用シーンは多岐にわたります。ここでは、改修工事の現場で特に効果を発揮する代表的な3つの事例をご紹介します。いずれも、従来の手作業ベースのワークフローでは実現が難しかった精度と効率を、点群×CADの組み合わせによって達成している好例です。
① 既存建物の3D CAD化による改修工事の図面作成

古い工場やビルでは、竣工当時の図面が紛失していたり、度重なる改修で現況と異なっていることが珍しくありません。3Dスキャンで現状を点群化し、CADデータに落とし込むことで、「今」の正確な図面を作成できます。改修設計の精度が飛躍的に向上します。
② 耐震構造の検討

複雑な構造を持つ古い建物の耐震診断において、点群データは非常に有効です。CAD化することで構造計算ソフトとの連携がスムーズになり、正確なシミュレーションに基づいた耐震補強計画を立案できます。
③ 工事計画のシミュレーション(干渉チェック)

大規模な設備更新時、新しい設備が既存の梁や配管にぶつかないか事前に確認する必要があります。CADモデル上で干渉チェックを行うことで、手戻りを未然に防ぎ、工期短縮とコスト削減を実現します。
点群データをCAD化するための3つのステップ
点群データをCAD化するには、大きく分けて「計測」「合成・処理」「モデリング」の3つのステップが必要です。各ステップで使用する機材やソフトウェアの選定が、最終的なCADデータの品質と作業効率を大きく左右します。以下では、それぞれのステップの概要と押さえるべきポイントを解説します。
点群データからCADデータができるまでのステップ
- 現地計測 3Dレーザースキャナーで取得
- 合成・ノイズ除去
- モデリング 2D図面・3Dモデル作成
この3ステップは順序が重要です。計測段階でのスキャナー選定や計測計画が後工程の効率に直結し、合成・クレンジングの品質がモデリングの精度を決定づけます。プロジェクト全体を俯瞰し、各ステップの最適化を図ることが、コストパフォーマンスの高いCAD化を実現するカギとなります。
ステップ1:現地計測 — スキャナーの選定
改修工事予定の現場を計測し、CAD化の元となる点群データを取得するのが最初のステップです。点群データを取得するデバイスには複数の種類があり、それぞれ精度・計測範囲・コスト・作業効率が異なります。プロジェクトの要件に応じた適切な機材選定が、後工程すべての品質を左右する重要な判断となります。
3Dレーザースキャナーの選定についてはこちらのコラム記事をご覧ください。
FARO Focus 3Dレーザースキャナーでの現地計測
ステップ2:前処理
取得した複数のスキャンデータを統合し、不要なノイズを除去する作業です。現場を複数回に分けてスキャンした場合、それぞれのデータを正確に位置合わせ(レジストレーション)する必要があります。
ノイズ除去では、計測時に発生する反射ノイズや、人物・車両など不要な対象物の点群を削除します。この工程の品質が、次のモデリング作業の効率と精度に直結します。
InfiPointsのノイズ除去(通行人を自動削除)
ステップ3:モデリング
点群データを下絵にして、壁・柱・配管などのCADを描いていきます。
- 2D CAD図面の作成:点群データを輪切り(断面)にして輪郭をトレースする方法
- 3D CADの作成:輪郭から描かれた2Dポリラインを立体方向に押し出す方法
いずれの方法でも、点群処理ソフトによる自動抽出機能を活用することで、手作業の工数を大幅に削減することが可能です。
InfiPointsのモデリング作業
点群からCAD作成を支援するソフトウェア
広大な空間の点群の隅々までを手動でCAD化するには、膨大な工数がかかります。そこで、この工程で圧倒的な効率化を実現するのが、InfiPoints(インフィポイント)などの「点群処理ソフト」です。これら点群処理に特化したソフトウェアを使用すると、配管や鋼材、ダクトの形状を自動抽出することが可能になります。手動モデリングに比べて作業時間を劇的に短縮できます。
点群処理ソフトの機能一覧(InfiPointsの例)
点群処理ソフトを用いた場合のCAD化プロセス
- 点群データのインポート
- データ結合・ノイズ処理
- ファイルエクスポート
- CAD・BIMソフトで仕上げ
点群処理ソフトである程度CADモデルを自動抽出・整形してからCAD・BIMソフトへエクスポートすると、手計測で得られた寸法情報を用いてゼロから作図するのと比較して大幅な工数削減が見込まれます。
当社ファクトリー・イノベーションが取り扱っているInfiPointsは一般的なIGESやSTEPファイルに加えて、Revit、Rebro、TfasなどのBIM・CADソフトのネイティブファイル出力にも対応しています。既存のワークフローを大きく変えることなく、点群活用のメリットを享受できる点が大きな特長です。
Matterportを用いた現況測定のメリット
ここまでは、点群データからCAD化する手順について詳しく説明してまいりましたが、併せてご検討いただきたいソリューションがMatterport(マーターポート)です。Matterportは、空間を丸ごとデジタルツイン化でき、圧倒的なスピードで高精度な点群データを取得できるのが特徴です。赤外線センサーやLiDARを搭載したカメラにより、写真のようなリアリティと測量レベルのデータを同時に手に入れることができます。
Matterportサンプルデータ
Matterport 3つの特徴
- 4K高画質の没入体験
Matterport Pro3は寸法精度±20mmと高額スキャナーには劣るものの、圧倒的な4K高画質写真で「現場にいるかのような没入感」を提供します。設備や躯体を詳細に理解できます。
- 現場訪問回数の削減
CAD図面とMatterportのリアルな写真空間を併用することで、工事関係者は現場への訪問回数を大幅に減らしつつ、円滑なコミュニケーションを実現できます。
- DXの民主化
単に図面化の工数を削減するだけでなく、「デジタルツインを民主化」させて全ての関係者にDXの恩恵をもたらすことが可能です。
図面だけでは伝わらない現場のリアルを届けるMatterport
点群データから3D CADや2D図面を作成した後、工事関係者は必ず現場の下見を行います。このとき、CAD図面だけでは伝わりにくい現場の「リアル」——壁の劣化状況、配管の取り回し、天井裏の狭さ——を、Matterportのデジタルツインで共有できることは、意思決定のスピードと質を飛躍的に高めます。施工前の認識合わせから、工事後の記録保存まで、プロジェクトのライフサイクル全体で活用できるツールです。
点群データ+CAD化+Matterportの活用で現場に真のDX民主化を
今回のコラムでは、点群データのCAD化が単なる図面作成の手段ではなく、現場の生産性を根本から変える強力なツールであることをお伝えしてまいりました。さらにMatterportを併用することで、「点群→CAD化」の先にある「真のDXの民主化」——すべての関係者がデジタルデータの恩恵を受けられる環境——を実現できる可能性を示しました。
本コラムのまとめ
- 点群データの基本を理解する
座標と色情報を持った点の集合体であること、CAD化しないと使えない領域があることを押さえましょう。
- 計測機材と処理ソフトを選定する
プロジェクトの精度要件・範囲・予算に応じて、最適なスキャナーとInfiPointsなどの点群処理ソフトを選びましょう。
- Matterportでデジタルツインを共有する
CAD図面だけでは伝えきれない「現場のリアル」を全関係者に届け、コミュニケーションコストを削減しましょう。
ファクトリー・イノベーションでは、点群データをCAD化するソリューションのご提案に留まらない、現場が恩恵を受けることができる真のDX化をお手伝いしています。「点群データを導入したいが、どのソフトを選べばいいかわからない」「CAD化の効率を上げたい」とお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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記事を書いた人皆川要外資系3次元測定器メーカーFAROにて法人営業を担当後、3Dソリューション営業の経験と知識を活かし、ファクトリー・イノベーション株式会社を設立。建設業・製造業・不動産などのDXを具体的な形で提案しています。